12th Conference for Health Care

2025年11月21日・22日、医療の質向上と業務改善をテーマにした「第12回 Conference for Health Care」が開催されました。今回も、スポンサー企業様2社のご支援を得て、国内外の医療施設や企業より、病院長や品質管理責任者など約80名の方々にご参加いただきました。
各セッションの要点をレポートします。
1. 「体験」が価値になる:CXとPXの深化
最初のテーマは、顧客や患者が感じる「価値」についてです。
石川朋雄氏(企画システムコンサルティング)は、製品の機能だけでなく、それを通じて得られる「体験・感情」こそが価値(CX:顧客経験価値)であると定義しました。「売れない理由」を探るには、データだけでなく顧客の行動観察が必要だと説きました。
これを受け、飯塚病院の中島雄一氏は、医療版CXである「患者経験価値(PX)」への転換を発表。従来の「満足度調査」は退院時の結果のみを見がちですが、PXは入院から退院までの「プロセス全体」を評価します。ネット・プロモーター・スコア(推奨度)などの指標に加え、患者のフリーコメント(自由記述)の分析が改善の鍵であると結論付けました。
質疑応答では、精神的なケアや感情をどう評価・教育するかという質問に対し、数値(スコア)だけでなく、現場での観察や言葉による定性的なフォローが不可欠であり、スタッフの「共感(エンパシー)」が土台になるとの議論がなされました。
2. 製造業の知恵を医療へ:ライン生産とセル生産
工場で使われる生産方式を医療に応用するユニークな実践報告となりました。
ライン生産:鬼頭靖氏(日科技連)は、工程を分業して流す「ライン生産」では、標準化と「異常の見える化」が重要だと解説しました。飯塚病院の尾崎実展氏は、手術室で薬剤の取り違えを防ぐバーコードシステム(i-MARS)の導入や、並行作業(並列化)による効率化を紹介し、安全性と効率の両立を訴えました。
セル生産:谷川正人氏(元コーセル)は、1人または少人数で複数の工程を完結させる「セル生産」が、多品種少量生産に向いていると説明しました。飯塚病院の犬丸絵美氏は、これを臨床検査に応用。技師を単一業務の「スペシャリスト」から、複数業務ができる「ジェネラリスト」へ育成し直すことで、コロナ禍などの欠員時にも業務を止めない強い組織を作り、残業時間を大幅に削減しました。
質疑応答は、人員配置の柔軟性について、教育による多能工化(スキルアップ)が組織のレジリエンス(回復力)を高めると確認されました。
3. 物流とDX:現場起点の改革
物流管理:木村哲也氏(アイム・リサーチワーク)は、運送業が荷主の工程(保管・加工)まで請け負うことで付加価値を高めた事例を紹介。飯塚病院の倉重貴彰氏は、院内物流において「重点管理品目」を定め、バーコードで消費期限や在庫を徹底管理し、無駄と欠品をなくす仕組みを提示しました。
DX推進:栂坂昌業氏(テクノクラフト)は、ゴルフカートナビ開発の経験から、常識にとらわれない「知らないパワー」がイノベーションを生むと語り、ウェアラブル端末による健康管理への挑戦を語りました。飯塚病院の陣内卓朗氏は、「ないなら作ろう」を合言葉に、現場スタッフ自らがMicrosoft Accessなどで業務ツールを開発するボトムアップ型DXを推進。年間5000時間の業務削減などの成果を上げ、「現場が動けば文化が変わる」と結論付けました。
質疑応答では、セキュリティと利便性のバランスや、まずは小さく始めて成功体験を積み重ねることの重要性が共有されました。
4. 組織とリーダーシップ:明るい職場作り
組織風土:木村哲也氏は、離職率が高かった保育園の改革事例を報告。マニュアル化やキャリアパスの明示、職場環境の改善(心理的安全性)を行うことで、離職率ゼロを達成しました。
基調講演
麻生泰氏は、公的病院の赤字脱却には、現場の改善活動による「明るい職場作り」と、情熱(Passion)を持ったリーダーが必要だと訴えました。
Gary Kaplan氏は、生産性向上とは「もっと働け」ではなく「ムダを取り除くこと」であり、スタッフへの尊敬が基盤にあると強調しました。
総括
安藤廣美座長は、QCの問題解決プロセス(PDCA)が仏教の「四諦八正道(苦しみの原因を知り、正しい道で解決する)」に通じるとし、変化する世界で自己とシステムを改善し続けることが成長につながると締めくくりました。
各セッションにおいて、活発な意見交換がなされ、単なる効率化の手法(テクニック)だけでなく、その根底にある「人への共感」や「働く人の幸せ」が医療の質を支えていることを再確認する場となりました。
本会の運営にご協力くださいました皆様に、厚く御礼申し上げます。
主な発表演題(カッコ内は発表者の所属施設)
- 顧客経験価値の深化による品質と顧客満足の向上(企画システムコンサルティング)
- 患者経験価値-PX:Patient Experience-(飯塚病院)
- 製造業におけるライン生産(日本科学技術連盟)
- 手術室の品質管理(飯塚病院)
- 製品安全リスクを考慮した設計プロセスの事例(日本科学技術連盟)
- 顧客の工程請負型物流倉庫事業の推進(アイム・リサーチワーク)
- 飯塚病院の資材管理体制について(飯塚病院)
- 仏陀の教えと品質管理(飯塚病院)
- コーセルにおけるセル生産方式の概要(日本科学技術連盟)
- 臨床検査におけるセル生産体制について(飯塚病院)
- 開発者から見たDXと可能性(テクノクラフト)
- 現場から始まるDX推進-改善人材が切り拓く“変革力の時代”へ(飯塚病院)
- 保育の質を高める組織づくり・人づくり(アイム・リサーチワーク)
- QCサークル3つの基本理念(飯塚病院)
スポンサー企業様
- 三菱商事株式会社
- 株式会社麻生

